<高柳式血統評価について>

○血統との出会い
 血統に興味を持ったきっかけは1988年の菊花賞。母父がスピードタイプのイエローゴッドで筋骨隆々の皐月賞馬ヤエノムテキ(1番人気)が馬群に沈み、代わって母がインターメゾ×Sayajiraoという英セントレジャー馬同士の配合で伸びやかな馬体&ストライドのスーパークリーク(3番人気)が直線独走したのを見て、距離適性は血統がモノを言う!と。もっとも、現在は馬場が高速化し、スローペースの瞬発力勝負が多くなったことで、そんな単純な話ではなくなってしまったが、距離適性の他にもペースの緩急への対応力、道悪の巧拙、急坂or平坦向きなどを血統から類推&イメージしたり、実際の走りと血統を結び付けて考察することは意義深く、1ランク上の楽しみ方でもあると思う(馬券的中に結び付けば言うことないのだが)。


○遺伝的効果と血統
 大学では集団遺伝学を先行^H^H専攻していたこともあり、遺伝的効果に基づいた私の血統評価についてまとめておきたい。

・相加的遺伝子効果~両親から(相加的に)受け継いだ遺伝的能力。親の近交度によって仔へ遺伝される能力にバラツキを伴う。種牡馬としての価値そのもの(育種価)であり、産駒のデビュー前には自身の競走成績(環境効果を補正する必要がある)から、以下の遺伝的効果を差し引いて評価する(産駒デビュー後は現場後代検定という形で評価できる)。

・優性遺伝効果~ヘテロ接合体の遺伝子型値がホモ接合体の遺伝子型値の平均を上回る場合に生じる効果。血統的にはアウトブリードによる雑種強勢の効果。当該個体において生じ、仔へは遺伝しない。心身の強健性、順応性などに影響し、近親交配の程度、共通祖先の特質により評価する。例えば、メジロマックイーンは綺麗な5代外交配で、6歳秋までタフに走り続け、晩年も全くパフォーマンスを落とさなかったが、種牡馬としては相加的遺伝子効果に乏しく、期待外れに終わった。しかし、自身が異系であることから、母方に入ると後代が外交配になり、優性遺伝効果をもたらして成功している。

・エピスタシス効果~異なる遺伝子座の組み合わせにより生じる効果。血統的には長所短所を補完するニックスの効果。当該個体において生じ、仔へは遺伝しない。増体系×資質系など具体的に根拠が明らかでバランスの取れた組み合わせについて評価するのが理想だが、例えばステゴ×マック配合、トニービン系×クラフティワイフ系配合など、後代検定的に後追いで乗っかるケースがほとんど(苦笑)。

・伴性遺伝効果~X染色体を通じて、父→娘、母→仔へ伝えられる遺伝的効果(父→息子へは伝わらない)。血統的にはハートラインによる効果とも呼ばれ、母の父として優れた種牡馬や、牝駒に活躍馬が偏るフィリーサイヤーが生じる原因でもある。伴性血縁上のインブリード(ダブルコピー)を持つ繁殖牝馬が活躍馬を出した場合、その下も優秀であることが多い。例えば、メジロデュレン(菊花賞)&メジロマックイーン(G1・4勝)の母メジロオーロラ(Uganda5×5)、トーセンラー(マイルCS)&スピルバーグ(秋天)の母プリンセスオリビア(Goofed4×4)、ヴィルシーナ(ヴィクトリアM連覇)&ヴィブロス(秋華賞)の母ハルーワスウィート(Halo3×4)など。

・ミトコンドリア遺伝効果~ミトコンドリアDNAを通じて、母→仔のみに伝えられる遺伝的効果。エネルギー代謝に重要な影響を持つ。血統的には牝系による効果で、牝系ごとに特徴をタイプ分けして評価する。上述の遺伝効果は細胞の核内DNAによるもので、競走能力の遺伝においてかなりの部分を占めている半面、両親が持つ遺伝子対のどちらを受け継いだかによって仔の遺伝子効果にバラツキが生じるため、正確に評価することは難しいが、環状のミトコンドリアDNAは卵子の細胞質を通じて母親からしか遺伝しないので、世代間の突然変異を考慮しても牝系ごとに何らかの特徴が維持されているのは間違いないと言える。


○ファミリーナンバー
 牝系の分類に欠かせないファミリーナンバーについて説明すると、オーストラリアの血統研究家ブルース・ロウが19世紀の終わりに著書「フィガーシステムによる競走馬の生産』の中で、英国のダービー、オークス、セントレジャーの勝ち馬について、その牝系を英国の血統書ジェネラルスタッドブック第1巻中の根幹牝馬まで遡り、それらの勝ち馬を多く出したファミリーの順に1~43号の番号を付けたことに始まり、その後ファミリーナンバーは74号まで増え、土着の牝系である米国のアメリカンファミリー、英国のブリティッシュ・ハーフブレッド、豪州のコロニアルファミリーなども追加された。現在では必ずしもファミリーナンバーの若い順に優れているとは言えない状況であるため、単に牝系を分類・整理する際の索引番号として利用されるくらいである。普通は(笑)。


○ファミリーナンバーのタイプ分け
 高柳流のファミリーナンバーを用いたタイプ分け関しては、先に述べた牧場見学や長年の馬券購買などにより構築された独断と偏見に基づいており、これが正解という訳ではないし、人それぞれの血統観があって当然である(牝系に限らず)。自分の場合は、ジリジリと地力強化して抜群の安定感を誇った7号族のメジロマックイーンと、良い脚一瞬で期待すると裏切られる8号族のメジロライアンの対比から始まっており、後に7号族のダンシングキイ一族やキョウエイマーチ、8号族のダイナカール一族やドリームジャーニー&オルフェーヴル兄弟などによってイメージが確立していき、これらを両極に置いて各ファミリーを地力系、バランス系、極軽系の3タイプに分類した。各タイプの特徴は以下の通り。

・地力系~1、5、7、12、16、22、26、27、28、29号族、サラ系、Bファミリー
 スタミナ&底力に富み、鈍重馬場やHペースの消耗戦に向き、高速レースや瞬発力勝負では斬れ負けする。調教だけでは仕上がり難く、レースを使いつつ良化し、成長力に富む。

 地力系の特徴を最も良く表している馬は7号族のメジロマックイーンである。ひと夏越して本格化し、函館の極悪非道な芝で覚醒すると、一気の相手強化も問題にせず菊花賞を制し、更に春天を連覇。しかし、ジャパンCでは高速上がりに対応できず、極軽系のゴールデンフェザント(3号族)&マジックナイト(23号族)らに斬れ負けしたのだった。7号族には他に、イットー&ハギノトップレディ&ダイイチルビーの華麗なる一族、ダンスパートナー&ダンスインザダーク&ダンスインザムードのダンシングキイ系、ヒシアマゾン&アドマイヤムーン&スリープレスナイトのKaties系など。
 マンハッタンカフェやブエナビスタ&ジョワドヴィーヴルなどでお馴染みの16号族ドイツのSライン牝系もコテコテの地力系で、仔出しの良さも特徴的。16号族には他に、シーザリオ&エピファネイア&リオンディーズ、アロンダイト&マリアライト、ラキシス&サトノアラジン、ゴールドシップ、ジェンティルドンナ、ソウルスターリングなど、近年の活躍が目覚ましいファミリーである。
 1号族はやや軽目の地力系で、あらゆる部門に活躍馬を送り出す最大派閥である(ファミリーナンバーの成り立ちからして当然だが)。昔で言えばアグネスレディー&アグネスフローラ&アグネスフライト&アグネスタキオンの一族、少し前ならトールポピー&アヴェンチュラ、ローズキングダムの薔薇一族、今でも勢いがあるフサイチコンコルド&ヴィクトリー&アンライバルドのバレークイーン系や、バブルガムフェロー&ザッツザプレンティ&ショウナンパントル&ディープブリランテのバブルな一族、サッカーボーイ&ステイゴールド&ショウナンパンドラの一族、レーヴディソールらを出すレーヴドスカー(伴性血縁上にSir Gaylord4×4)一族、マカヒキ、サトノダイヤモンドなどなど・・・。
 12号族も多数派で、古くはニッポーテイオー&タレンティドガール&ホエールキャプチャ、エルプス&テイエムオーシャンらが出る古き良きビューチフルドリーマー系、最近ではシングスピール&グラスワンダー&ダノンシャンティ&ヴィルシーナ&ヴィブロスらが出て活力旺盛なSoaring系などが挙げられる。
 ただし、このような牝系に由来する効果は種牡馬から産駒へ伝えることができない。特に、地力系らしくジリジリと成長したような馬の場合は、種牡馬として期待を裏切るケースも多い。

・バランス系~4、9、11、13、14、17、18、19、21、31、32、36、42号族
 ワンペースな走りから先行策が理想で、ダート馬も多く出る。堅実な反面、勝ち味は遅い。

 近年勢いがあるのは9号族。牝系としてはベガ&アドマイヤベガ&アドマイヤドン&ハープスターの一族、カンパニー&トーセンジョーダンのクラフティワイフ系、アドマイヤマックス&ラインクラフト&ソングオブウインドのファンシミン系などで、渋太いナタの斬れ味が武器。トゥザヴィクトリーのフェアリードール系は芝&ダート兼用、ゴールドアリュールの一族はダート志向。ワンペースな走りの先行馬キタサンブラックも一つ間違えたらダート馬になっていたかモネ。
 多数派の4号族もバランス系らしいワンペースな走りがデフォルトで、芝馬ダイワメジャー&ダイワスカーレットも、ダート馬サカラート&ヴァーミリアン&キングスエンブレム&ソリタリーキング兄弟も出す、スカーレット一族が代表格。サクセスブロッケン、エスポワールシチー、フリオーソといったダートの猛者も多い。最近ではイスラボニータ、レッツゴードンキ、ディーマジェスティなど。
 毛色の違うところでは、ローカル向きのハンディキャップタイプを示す19号族レディチャッター系。シャダイチャッター&スピークリーズン&スマートギアなどが出る他、2006年の福島記念では8年前に同レースを勝ったオーバーザウォールの下のサンバレンティンが姉弟制覇を果たしたばかりか、同牝系のフォルテベリーニ&ワンモアチャッターも2&3着に続く快挙(?)。しかし、最近ではラブリーデイがバランス系らしい先行力を見せて宝塚記念&秋天を制し、牝系のイメージを変えつつある。

・極軽系~2、3、6、8、10、15、20、23、24、25、37、52号族、A&Cファミリー
 スピード&瞬発力に優れ、高速馬場やSペースの斬れ味勝負に向き、底力が問われるレースではモロさを出す。才気に溢れ、仕上がり早だが、成長力に欠ける。

 極軽系らしいスピード&斬れを示すのが8号族のダイナカール一族で、エアグルーヴ&アドマイヤグルーヴ母仔や、エガオヲミセテ、アイムユアーズなど「牝馬上位」の傾向も認められる。その中で香港G1を制したルーラーシップの能力は評価に値するし、種牡馬として成功しつつあるのも当然かと。種牡馬と言えばシンボリクリスエスは別格として、メジロライアンはメジロドーベル、エアジハードはショウワモダン、キングヘイローはカワカミプリンセス、オレハマッテルゼはハナズゴール、ヴィクトワールピサはジュエラーを出したし、オルフェーヴルも成功間違いなし。エイシンフラッシュは大苦戦だが・・・。
 ディープインパクトは祖母父に「キングジョージ」の勝ち馬Bustedが入る字面は鈍重血統だが、極軽系の2号族らしい斬れ者に。今や大種牡馬だが、クロフネ&ゼンノロブロイも成功したし、ロードカナロアやジャスタウェイも楽しみ。17年は春クラシックをレーヌミノル&アルアイン&レイデオロが制して勢いも十分。
 和風の極軽系なら3号族のフロリースカップ系。シラオキ分枝からはシスタートウショウ、マチカネフクキタル、スペシャルウィーク、ウオッカが出る。ただ、3号族のJRAG1勝ちは14年オークスのヌーヴォレコルトが最後で、再興が待たれる。

 ちなみに、ブルース・ロウは1~5号族を優れた競走馬が多く属する系統として「競走族」、3・8・11・12・14号族を優れた種牡馬が多く属する系統として「種牡馬族」と呼んだが、牝系の効果(ミトコンドリア遺伝効果)自体は種牡馬から産駒へ伝わらないので、誤った考え方ではある。しかし、もし実際にレースで示したパフォーマンスが互角であれば、牝系の効果が優秀な馬より、牝系の効果が劣った(牝系に頼っていない)馬の方が、産駒に伝え得る(相加的な)遺伝効果は大きいと言える。私の分類では、総合的に見た牝系の効果の優劣は地力系>極軽系と評価しており、その意味では地力系=競走族、極軽系=種牡馬族となる。

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